福利厚生費が多いと、クリニックの業績は良くなる?【クリニック経営データ分析 Vol.02】
福利厚生費が多いと、クリニックの業績は良くなる?
筆者:日本経営ウィル税理士法人
渡邊 宙
イントロダクション
福利厚生費とは一般的に、給料や賞与以外に会社が従業員のために支出する費用です。また、国税庁によると、福利厚生費は専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用のことで、交際費とは区別されます。前回のコラムでは、交際費について解説しました。そこでは、売上や粗利益と一定の相関がみられたことから、クリニックの業績に何らかの形でプラスの影響を与えていることが分かりました。
そこで今回は、交際費に引き続き、福利厚生費がクリニックの業績にプラスの影響を及ぼすのかについて検証していきます。
福利厚生費と売上・利益との関係
はじめに、令和3年度のクリニックの福利厚生費と売上や利益との相関係数を算出しました。それらをまとめたものが下記の表1になります。
※相関係数は、一般的に0.3以上で相関関係があると認められると言われています。
売上 | 粗利益 | |
福利厚生費(法人) | 0.65 | 0.66 |
福利厚生費(個人) | 0.29 | 0.32 |
(表1:各種財務指標との相関係数 法人:n=458、個人:n=364)
法人については、売上や粗利益との相関係数はともに0.6を超えており、かなり高い相関関係があると判断できます。個人については、売上や粗利益との相関係数は0.3程度と、法人と比較するとかなり低くなりました。つまり「事業規模の違いによる福利厚生費支出額の相関」を見ると、一定の事業規模までは福利厚生費による売上・粗利益への影響は少ないものの、それ以上に事業規模が拡大すると、福利厚生費と売上・粗利益の影響が大きくなると言えます。では、次の項目では「福利厚生費の支出額の違いによる相関」を見ていきましょう。
福利厚生費の支出額の大きさによる特徴
福利厚生費の支出額が多い順に上位50%(以下、福利厚生費の支出額が多い事業所)、下位50%(以下、福利厚生費の支出額が少ない事業所)に分け、相関を取りました。今回は、医薬分業別の影響を排除するため、粗利益との相関について見ていきます。福利厚生費の支出額が多い事業所は、粗利益との相関が0.65、少ない事業所は0.21となりました。福利厚生費の支出額が多い事業所は、粗利益の大きさと高い相関があると言えますが、少ない事業所の場合は、粗利益の大きさとの関連は少ないことが分かります。
粗利益との相関 | |
---|---|
福利厚生費の支出額が”多い”事業所 | 0.65 |
福利厚生費の支出額が”少ない”事業所 | 0.21 |
また図1は、福利厚生費の支出額が多い事業所を赤の点、少ない事業所を青の点でそれぞれ示しています。青と赤の線はそれぞれの点の平均を表しています。
(図1:n=824)
福利厚生費の支出額が多い事業所を示す赤の点は、粗利益が比較的多い部分にも分布していることが分かります。一方、少ない事業所を示す青の点は、粗利益が少ない部分に固まっており、粗利益が多い部分にはごくわずかの事業所しか分布していないことが分かります。
今回分析したデータでは、売上が1億円以上の法人が法人全体の57.9%であるのに対し、売上が1億円以上の個人は個人全体の12.9%であることからも分かる通り、一般的には法人の方が事業規模が大きいと言えます。また、法人全体の59.9%、個人全体の37.9%が赤の点に属しており、法人の事業所の方が福利厚生費と粗利益の相関が高い傾向があることが図1からも分かります。よって、先ほどの法人と個人の福利厚生費と売上・粗利益との相関の違いは、法人と個人の事業規模の大きさによる違いから来ていると考えられます。
例外的に、福利厚生費が少ないにも関わらず粗利益が多い事業所がありますが、具体的には次のようなケースであると考えられます。在宅診療、手術などの診療単価の高い診療を行っている場合、従業員をMS法人で雇用しているため診療所自体では従業員の雇用人数が少ない場合、などです。そのため一般的には、福利厚生費の支出額が多い事業所ほど、粗利益が多いと言えるのではないでしょうか。
ちなみに…
福利厚生費は主たる対象者が従業員、交際費は主たる対象者が外部の取引先などになりますが、二つの経費の間に相関関係はあるのでしょうか。福利厚生費と交際費との相関係数を見てみると、法人では0.41、個人では0.40となり、いずれもやや高い相関があると判断できます。福利厚生費の支出額が多い先は、交際費においても支出が多くなる傾向にあるようです。
結論&考察
今回は、福利厚生費とクリニックの業績の関係について解説しました。ここまでをまとめると、前回の交際費と同様、福利厚生費と売上や粗利益には正の相関関係があることが分かりました。その一方で、交際費は事業規模を問わず売上や粗利益に影響を及ぼしていますが、福利厚生費は、事業規模が大きい場合に売上や0粗利益に及ぼす影響が大きくなる、という違いがあります。事業の拡大に伴い、従業員への福利厚生費についても事業への投資と捉え、計画的に支出することが大切ではないでしょうか。
売上や利益の増加につながるような福利厚生費の使い方をできているかどうかは、各クリニックごとに詳細な分析が必要です。優秀人材の確保が重要な経営課題となっている昨今、従業員同士のコミュニケーションの円滑化、モチベーションアップ、働きやすい環境を作ることによる能力発揮と成長の促進を目的とした、福利厚生費の有効的な活用が今後求められるでしょう。 自院の各経費比率が一般的な水準と比較して高いのか低いのか、またそれらの経費の有効活用ができているのかどうか、専門家と共に分析されたい方は、お気軽にお問合せください。
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2023年8月25日
日本経営ウィル税理士法人
渡邊 宙
[クリニック経営データ分析]コラム
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医療・介護
- 種別 レポート